絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

神の道化師

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『神の道化師』
 トミー・デ・パオラ 作 ゆあさ ふみえ 訳
 ほるぷ出版 1980年

 

あらすじと感想

ジョバンニはみなしごです。家もなく、人からの施しで生きてきました。でも、彼にはすばらしい才能がありました。曲芸(ジャグリング)です。そのおかげて八百屋さんの客引き役をつとめ、あついスープにありつけるのでした。ある日、旅芸人の一行が町にやって来て、ジョバンニはその一行に加えてもらいます。やがてジョバンニは人気者となります。王子様の前でも芸を披露するほど有名になるのです。年月が流れ、年老いたジョバンニの芸にもかげりがでます。失敗する姿をあざ笑われるようになります。ふたたび乞食のようなみじめな生活に戻ってしまうジョバンニ。なつかしい町へと帰り、雨でびしょ濡れになった彼は、聖フランシスコ教会に入りそのまま眠り込みます。目をさますと教会ではミサが行われていました。イエスの誕生日を祝うミサでした。この日、息絶えようとするジョバンニに奇跡が起きるのです。
この絵本は、キリスト教をモチーフとしているかもしれませんが、宗教というよりも人間そのものをテーマにした作品だと思います。人が生ききる道、その深遠さに目を耳を心をかたむけてください。


読み聞かせレポート
対象: 小学1年~6年生  32人
場所: はまっ子ふれあいスクール

48ページもある絵本です。文字量も多く、はたして子どもたちは最後まで飽きずに聞いてくれるだろうか? ながい航海へ出る気持ちで絵本をかかげ読みはじめました。わたしの足もとに4年生の男の子がやってきました。家庭に問題を抱えたむずかしい子です。よく騒ぐのですが、読み聞かせのときは静かにしていることもあります。凪いだ海のような雰囲気のうえをものがたりは順調に進んでいきます。まだちいさく貧しいころのジョバンニ、旅芸人のなかまに入り、やがてひとり立ちして人気者となっていきます。そして年老いて落ちぶれていくみじめなジョバンニ……。ものがたりが後半に入るとさすがに何人かはついてこれなくなり、体をグニャグニャしはじめます。なんと足もとの男の子は隠し持っていたマンガを読んでいるではないですか! まあ、こんな程度では滅入りません。突然、真上のスピーカーからおそってきた校内放送にもじっと聞き入る子どもたちのたくさんの視線にはげまされて、後半は口の動きがにぶくなりましたが、無事に読み終えることができました。「ジョバンニが最後に死んでしまうのが悲しい、でもその前まではよかったよ!」そんな感想を聞かせてくれた2年生の女の子。死という残念な結末がありますが、この作品には人がたどる栄枯盛衰のストーリーが凝縮されています。<生きていくということ>を描いた絵本なのです。