絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

くろくんとなぞのおばけ

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『くろくんとなぞのおばけ』
 なかやみわ 作
 童心社 2009年 

 

あらすじと感想

絵本のなかで文房具を擬人化するなら、エンピツやコンパスではちょっと固すぎます。定規やハサミじゃあ、夢がない。消しゴムは“消す”という魔法のようなチカラを持つのでストーリーが作りやすいけど、ネガティブかな・・・。やっぱりクレヨンがいちばんでしょう。かたちもすでに擬人化できるようなたたずまいだし、なんといっても色とりどり、ファンシーさがあります。火や水や草など、色によるシンボライズもできます。でも、この絵本の主役は黒のクレヨン、くろくんなのです。物語はこうです。朝、目がさめると仲間のきいろくんがいない。次の朝には、あかさんとピンクちゃんがいない。そしてまた次の朝には…。最後に残ったのがくろくん。仲間のクレヨンたちを探しにあやしい足跡をつけていきます。着いた先はネズミの家、仲間たちは無事です。子ネズミたちがクレヨンを連れてきたのです。元気がないおじいちゃんネズミを絵で励まそうとしたのです。くろくんも手伝います。そして星空を仲間たちと描きます。それを見たおじいちゃんネズミは…。悲しいことでも悲しくならない結末を用意した奥行きのある絵本です。

 

読み聞かせレポート
対象: 小学1年生 24名
場所: はまっ子ふれあいスクール

「きょうはこれを読みます」というと、しってる! しってる!とたくさんの声。みんなの知らない絵本を読み聞かせるというのも楽しみのひとつなので、その点では少しがっかり。でも、それだけ知られた人気作品ならば、安心して読めます。「知っていても、ぜったいに話をしちゃだめだよ」これは念を押しておかないと、かならず知ってる子は先のストーリーをしゃべりだします。この絵本の読み聞かせで工夫したのは、会話のところでしょうか。登場人物が多いのです。10色のクレヨンは全員話をしますし、ネズミの親子やものさしのおばさんもしゃべります。もちろんすべて声色を変えることはできません。またそんな必要もありません。でも、性別の違いと年齢の差だけをわかるように声のトーンを変えた方がいいと思います。それと主人公のくろくんは、ほかの登場者よりもキャラクター性を出し、ヒーローっぽく少し力強い感じの声で話させると、物語に生彩さが効いてきます。全体的にテンポよく読み聞かせするといいでしょう。ただ、最後のほう、おじいちゃんが天国へ行くシーンはじっくりと間をとって話してあげてください。