絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

ちいさな くれよん

『ちいさな くれよん』
 篠塚かをり 作  安井 淡 絵
 金の星社 1979年

 

あらすじと感想

捨てられたちっちゃな黄色いクレヨンが主人公です。まだ、描けるのに、きれいに塗れるのに…。黄色いクレヨンはまだ自分が役に立てるはずだとゴミ箱から広い世界へと出て行きます。外ではじめて出会ったのは、小さな靴に描かれた2匹のヒヨコの絵です。黄色いからだが色あせて今にも消えそうです。そこでクレヨンはヒヨコにせっせと自分の色を塗ってあげるのでした。きれいに仕上がり、ヒヨコは大喜び! つぎに出会ったのはオモチャの黄色い自動車です。自動車はすっかり古びてしまい子どもに遊んでもらえないのでした。クレヨンは色のはげた自動車に自分の色をまたせっせと塗ってあげるのでした。自動車はとてもきれいになりクレヨンにお礼をいいます。いろんなものに色を塗ってあげたのでクレヨンはすっかりチビてしまいました。夜になり空に星が光りはじめます。そのなかでひとつだけ光の弱い星がありました。クレヨンは自分のからだ全部つかってその星を輝かせたいと思います。そしてクレヨンは……。図書館で出会った絵本です。読み聞かせをしている人ならこの作品をいっぺんで好きになり、ぜったい子どもたちに読んであげたいと思うのでは。初版は1979年。わたしが借りたものは2000年刊第13刷です。長く愛されている隠れた名作です。

 

読み聞かせレポート
対象: 小学1・2年 31人
場所: はまっ子ふれあいスクール

これまで目に触れたことのない絵本だったので、子どもたちも当然知らないだろうと思っていました。ところが、「しってる、しってる」「ぼく、ほいくえんでよんでもらったよ」「あたしも~」という声。たぶん、同じ保育園の子たちなのでしょう。いい本を読んでくれたいい先生がいたんですね。描かれたちびたクレヨンがとっても愛おしく、健気です。その姿にみんなの視線が集中します。ストーリーの中心にあるのは、わが身を削ってでもだれかの役に立ちたいという社会性と自己犠牲の心です。大人の心にはグッとささるテーマですが、はたして子どもたちにはどこまで伝わったでしょう。低学年の子どもには自己犠牲という行為はやはりわかりにくかったようです。それは読み終えた後の空気感でわかります。たとえば大人が高く評価するシルヴァスタインの「おおきな木」という絵本があります。とてもいい作品です。大人の心、親心の琴線に触れる感動的な作品です。ですが、子どもの胸に響くには遠い先の物語のように思えます。『ちいさな くれよん』の主人公は子どもの分身でもあります。自己投影できる姿とプロットがあります。この作品の持つ普遍的なテーマをぶつけるのは高学年以上の子どもたちこそふさわしいのかもしれません。