絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

ぼくはジャガーだ

f:id:ehontabi:20220407094156j:plain

『ぼくはジャガーだ』
 ウルフ・スタルク 著   
   アンナ・ヘグルンド  絵   いしい としこ 訳 
    ブッキング(復刻刊)2007年

あらすじと感想

ちいさい男の子エルマーは、ある夜、突然ジャガーになってしまいます。パパもママもジャガーになったことに気づきません。エルマーは意気揚々と夜の町へと飛び出します。いつもびくびくさせられていた近所の太っちょの犬を逆におびえさせエルマーは得意満面。それを見ていた青い目の美しい猫にエルマーは一緒に遊ぼうと声をかけます。でも、猫はこわがって逃げ、道路に飛び出しクルマにはねられしまいます。自分のせいで事故にあい、死んでしまったと涙を流すエルマー。でも、キスをしてやさしく頭をなでてあげると猫は生き返ります。こうしてエルマーはエリノアという名の猫と仲良くなり、夜の町を冒険するのです。やがて町のあかりも消え、エリノアとの別れの時間となります。また明日も遊ぶことを約束するふたり。さて、ひとりぼっちになったエルマーは……。物語は、親から離れてこれまで知らなかった世界へ出て、ふたたび親の元に帰る<冒険と帰還>という基本的な流れを持っています。この作品でとりわけ印象に残ったのはエリノアとの出会いと別れです。エリノアはエルマーにとって「異性」であり、絵本の中では幼年の恋という甘美さがかすかに流れているのです。「恋」という香りがこの絵本に独特な余韻を与えているように思えました。

 

読み聞かせレポート
対象: 小学1年 21人
場所: はまっ子ふれあいスクール

読み聞かせで心強い“絵”というものがあります。絵そのものの筆致や色づかい、対象の描き方が子どもたちに安心感や親近感を与える、そんな絵です。美しいというよりも愉快な、かちっとしているよりものびのびとしている、そんな画風です。タイプはぜんぜん違いますが長 新太さんの絵なんかはとても心強いです。この絵本の絵はドイツの女性画家アンナ・ヘグルンドさんが描きました。タイトルも『ぼくはジャガーだ』と、ど真ん中の直球。本を掲げただけで子どもたちがひとつになります。物語中盤でクルマにはねられて失神したエリノアにエルマーがキスをします。少しドキドキするシーンです。子どもたちを前に「キス」という言葉を発したときは声がちょっとふるえてしまいました。「ひょーっ、キスだって!」すかさず男の子が反応。ありがとね! きみのおかげで微妙な緊張感が消し飛んだよ。エンディングは親子のあたたかい温もりをきちんと伝えてしめくくられます。エルマーのエリノアへの想いを伝える最後の言葉も心にしみます。