絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

かわいそうな ぞう

f:id:ehontabi:20220312085507j:plain

『かわいそうな ぞう』
 土家 由岐雄 作  武部 本一郎 絵
 金の星社 1970年

 

あらすじと感想

戦争末期、連日のように空襲にさらされていた東京の上野動物園でほんとうにあった話を絵本にしたものです。空襲で動物たちの檻が壊されて猛獣が町に出ては危険だということで、人気者の3頭のゾウも殺されることになります。毒を入れたじゃがいもを与えますが、かしこいゾウは食べません。薬殺しようと注射を打とうとしますが、皮がかたくて針が折れてしまいます。しかたなく、水も食べものも与えない方法で死に至らせることになります。だんだん元気がなくなっていくゾウ、栄養失調でその姿も変わり果てていきます。ある時、息絶え絶えのゾウは、力をふりしぼって芸当をしてみせるのでした。そうすれば昔のようにごほうびのエサをもらえると思ったのです。たまりかねた飼育係の人は規則を破りエサを与えます。だれも何もいいません。いえません。けれど、それもむなしくゾウたちは飢え死にしていくのでした・・・。こうした悲しい出来事を題材にした絵本は、なかなか読んであげようと思えないものです。やはり、終戦記念日や大空襲のあった日などに読み聞かせるのが一つの機会ではないでしょうか。おきまり、マンネリといわれたとしても、子どもたちに伝えていく意味のある読み聞かせだと思います。

 

読み聞かせレポート
対象: 小学1~4年生 約20人
場所: はまっ子ふれあいスクール

「あー、しってる、しってる」「ようちえんでそれなんかいもやったよ」野花と3頭のゾウの顔、そして赤い文字のタイトル、40年以上前に刊行された本の表紙はさすがに時代を感じさせます。でも、子どもたちには馴染みある本のようです。この日の読み聞かせのために買ってきたこの絵本の奥付を見ると、1970年初版、2012年6月170刷となっています。まさに版に版を重ねて読み継がれている作品なのです。ページをめくりはじめました。――うえのの どうぶつえんは、さくらのはなざかりです。・・・・・・にぎやかなひろばから、すこし はなれたところに一つの いしの おはかが あります・・・読みはじめると、子どもたちの頭の上にしーんとした空気が張りつめました。さっきまでの騒がしさはどこかに吸い取られてしまったかのようです。子どもたちは、はじめからおわりまで、じっと耳をかたむけ、目をこらしていました。読み終わると、少し沈黙があって、またガヤガヤっと、いつもの場に戻っていきました。戦争のことでも聞いてくるのかと待っていましたが、なにも質問も感想もありませんでした。わたしも子どもたちにたずねたりしませんでした。あのしーんと張りつめた空気だけを、この日、大事とっておきたかったのです。最後に、この絵本を毎年、読み続けていくことをわたしは子どもたちの前で誓いました。