ぼくのうちに波がきた
『ぼくのうちに波がきた』
オクタビオ・パス 原作 キャサリン・コーワン 著
マーク・ブエナー 絵 中村 邦生 訳
岩波書店 2003年
あらすじと感想
海へはじめて行った男の子。帰ろうとしたら、波がひとつ海からちぎれてついてきてしまいます。男の子は、波を列車の飲み水用タンクにこっそり隠し、家まで連れて帰ります。波は部屋中を青や緑にきらきらと輝かせ、影を追い出し、ほこりまで掃除してくれます。男の子は波と友だちのように戯れてしあわせいっぱい! でも、機嫌が悪くなると波は荒々しくなり、大事なオモチャをびしょびしょにして困らせます。寒い冬が来ると、波は部屋のすみに縮こまり、一日中ほえつづけるようになります。波はゆうれいや怪物たちまでも部屋に呼びこむのでした……。原作はメキシコの詩人オクタビオ・パス。詩的な言葉も散りばめられていますが、物語と密着した表現なので浮いた感じにはなりません。エンディングは、「波」から「雲」へと主役を代えて楽しくもまた恐ろしくもある物語へと回帰していきます。独特の余韻を響かせる作品です。
読み聞かせレポート
対象: 小学4年生 約30人
場所: 教室(朝の読み聞かせ)
教室での朝の読み聞かせです。本日担当のクラスは1時間目が体育。男女分かれての着替えがなかなか終わりません。やっと教室に入るとみんな顔が上気してもうすっかり運動モード。「10分だけ集中して聞いてね!」そう言うと、さすが4年生、ちゃんと気持ちを切り替えてくれます。ところどころで顔を見わたします。顔を輝かしている子たちが目に入ります。おもしろいよ! そんなエールが送られているのを感じます。4年生のクラスでの読み聞かせは初めてでした。本のなかに怪獣やばけものが出てくる見開き場面があります。ページを開いたとき、うわぁ~という盛り上がりを期待していたのですが、無反応。1、2年生ならそんな声があがるところですが、彼女たち彼らはこの物語の流れに身をゆだねていたようです。読み終わって、ちょっと質問をしてみました。波にすっかり翻弄された少年……つぎはふんわりした雲を家に連れてきたいと思い、最後に白い大きな雲が出てきてこの物語は終わります。「雲は波みたいに男の子を困らせたりしないと思う人手を上げて」……シーン。「じゃあ、困らせると思う人」サッと全員の手が上がります。うん、ちゃんとわかっている! 絵もしっかり見ている! 想像力も身についているようです。さて、みなさんなら読み終わってどう思われるか……。