絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

ペレのあたらしいふく

『ペレのあたらしいふく』
 エルサ・ベスコフ  作  おのでら ゆりこ  訳
 福音館書店   1976年

 

あらすじと感想

ペレの飼っている子羊は大きくなりました。ペレも背が伸びて上着は短くなるばかり。ある日ペレは、子羊の毛をぜんぶ刈り取りました。それをおばあちゃんのところへ持っていき、梳(す)いてくれるように頼みます。おばあちゃんは引き受けてくれますが、そのかわりペレに畑の草取りをいいつけます。ペレは草取りをし、おばあちゃんは羊の毛を梳いてくれました。それからペレはもうひとりのおばあちゃんのところへ行き、梳いた毛を糸に紡いでくれるように頼みます。「わたしの牛の番をしてくれるならね」とおばあちゃん。ペレは牛の番をし、おばあちゃんは毛を糸に紡いでくれました。つぎにペレは糸を染めてもらうためにペンキ屋のおじさんのところへ・・・。少年が大人たちの力に助けられ、あたらしい服を手にするまでの物語です。いろんな技術を持つ大人たちと少年のふれあいが描かれます。"服"という人の知恵から生まれたものづくりを少年は学びます。少年は大人たちから頼まれた仕事を引き受けます。そして、頼まれた務めをきちんとやりとげるのです。頼み頼まれるという相互関係を築きながら働くということの意味を体験するのです。

 

対象: 小学3年生 約30人 
場所: 教室(朝の読み聞かせ)

ちょうどこのクラスでは蚕(かいこ)を飼って繭(まゆ)まで育てるという学習を終えたばかりでした。羊毛も繭も衣服になる素材です。読みはじめる前に子どもたちとそんな話をちょっとしました。最初から最後までみんな静かに行儀よく聞いてくれました。でも、読み終えた後、なんか手応えのようなものが感じられません。たしかに笑いを誘う物語ではありません。あっ、と驚くような展開も悲しい場面もありません。こんなところかな……。なんか物足りないような宙ぶらりんの心持ちで教室を出ました。反応のない読み聞かせの後は一日中、この宙ぶらりんが自分にくっついてしまいます。娘のクラスでの読み聞かせだったのですが、その日の夕食時「みんなね、おもしろかったっていってたよ」という娘の一言。それを耳にしたとき、じわっととこみ上げてくるものがありました。一見、無表情とも思えた子どもたちでしたが、その心のなかでペレの物語がちゃんと花咲いてくれたようです。自分がいいと信じる作品なら、たとえそのとき、反応がないと感じても子どもたちの心のなかでは何かが起きている。そんなことを教えてもらった一日でした。