絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

急行「北極号」

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『急行「北極号」』
 クリス・ヴァン・オールズバーグ
 村上 春樹 訳 あすなろ書房 2003年

 

あらすじと感想

夜もふけたクリスマスイブ、男の子の家の前に突然、汽車がやってきて止まります。それは北極点をめざす急行「北極号」でした。男の子がパジャマのままで乗り込むと、客車のなかには同じように寝間着姿の子どもたちがたくさんいるのです。汽車は、暗い森を抜け、高い山を越え、氷の氷原を進み、やがて北極点の街にたどりつきます。そこにはクリスマスプレゼントのおもちゃをつくるたくさんの工場があり、何百ものこびとたちがいるのです。こびとたちのなかからサンタクロースがあらわれ、クリスマスプレゼントを渡す第一号に男の子が選ばれます。男の子が欲しいといったのは、サンタのそりにつけられた、胸ときめく音色を響かせる銀の鈴でした。帰りの汽車のなかで、男の子はもらった銀の鈴がないことに気づきます。ポケットに穴があいていたのです。男の子はがっかりします。そして、クリスマスの朝をむかえます。さて、この朝いったいなにが起きるのでしょう・・・。サンタクロースの存在をテーマとした絵本はいくつかありますが、『急行「北極号」』は、ひと味違う切り口で子どもの“信じる”という心を問いかけてきます。オールズバーグのミステリアスな絵世界と哀愁を含んだラストが深い余韻を残す名作中の名作です。


読み聞かせレポート
対象: 小学1~5年生 約60人 
場所: はまっ子ふれあいスクール

オールズバーグのファンでもある村上春樹の訳による格調高い文章です。ページのなかから一節をピックアップしてみましょう――はるか遠くに光りが見えてきた。それは凍りついた海を航海している、謎の客船をいろどる照明みたいに見えた――高学年ならともかく、こんな文を小学生低学年が理解できるだろうか? 若干不安がありました。でも、読みはじめると謎めいた絵と物語のなかにみんなぐっーと吸いこまれていくのです。大人の味をあじわってもらおう、そんな気持ちで媚びずに堂々と名朗読に挑みましょう! というわたしは、じつは昨年、別の子どもたちのクリスマス会でこの絵本を読み、苦い経験をしました。練習に練習を重ねていたのですが、タイトルを「キュウキョウキョッキョクゴウ」と読んでしまい、のっけからコケてしまったのです。それにワルガキがすかさず反応し、ちゃちゃを入れられ、それが結構こたえ最後まで尾を引きました。あの時は、うまく読もう、かっこよく読もうと相当構えていたのです。今回は、うまくではなく、自分もこの物語を楽しもうと心がけました。細部にはあまりこだわらず、全体に流れが生まれるよう意識しました。当日は、60人ものおおぜいの子どもたちを前にしましたが、いい感じに読み聞かせができたようです。座ろうともせずふざけあったりしていた“今回の”ワルガキさんたちもいつのまにか壁によりかかって静かに耳をかたむけてくれました。うまく読もうという気持ちがあるかぎり、人に伝わるいい読み聞かせはできないのでしょうね。