絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

おにたのぼうし

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『おにたのぼうし』
あまん きみこ 文  いわさき ちひろ 絵
ポプラ社 1982年

あらすじと感想

ある家の物置小屋に“おにた”という黒オニの子どもが住んでいました。でも、節分の夜、その家の男の子が豆まきをしにやってきたのです。おにたは、ツノをかくす麦わら帽子をかぶってそこを出ます。なくしたビー玉をみつけてくれたり、こっそりと靴を磨いてくれたりする、本当はいいオニだったのですが・・・。おにたは次のすみかにトタン屋根の家をえらびます。オニがきらいなヒイラギも飾っていません。豆の匂いもしません。そこは小さな女の子が病気でふせっている母親と暮らす家でした。とても貧しく「だいどころはかんからかんにかわいて」なにひとつ食べるものがありません。お腹がすいていないか、お母さんが娘のことを心配します。女の子は節分のごちそうで余った赤飯やウグイス豆を知らない男の子からもらったとうそをつきます。それを見ていたおにたは、女の子がいったとおりのことをしてあげるのです。女の子は喜びますが・・・。1969年に出版された作品です。あの頃、高度成長の時代だったのですが、その波に乗りきれず貧しい暮らしをしていた人たちは少なくありませんでした。あれから半世紀、食べられないほどの貧しさがこの国にふたたびあらわれだしています。そうした切ないリアルさやオニという負の存在が交差する心にしみる絵本です。


読み聞かせレポート
対象: 小学1年生  20名
場所: はまっ子ふれあいスクール

節分をテーマにした“おはなし会”で、この絵本と『ソメコとオニ』の2冊を選びました。しっとりするものと楽しいものの2本立てです。この日は天気も良く、子どもたちは外遊びしたくてたまらなそうです。はじまるヨ~と声をかけると、え~っ、きかなきゃだめなの~という子もいて、出鼻をくじかれます。まずは、楽しい話の『ソメコとオニ』で空気を“おはなし会”にしてしまいます。1作品終わって落ち着くかなと思いましたが、そうでもありません。さて、『おにたのぼうし』の出番です。案ずるより産むが易し。読みはじめると、あのしーんとしたここちよい空気感がうまれます。こちらが吸いこまれるような空間です。いわさき ちひろさんの絵からのやさしさ、やすらぎが子どもたちに波長をおくっているのでしょう。その絵は、読み聞かせている者をも包みこみ励ましてくれる力があります。『おにたのぼうし』は、ちょっと悲しい話です。終わり方もハッピーではありません。けれど、味わい深いエンディングです。この作品の読み聞かせをするときには、最後、余韻を残すことに集中してみてください。映像として音として、その余韻が残りつづける子どももきっといるはずです。