絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

ひろしまのピカ

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ひろしまのピカ』
 丸木 俊 作
 小峰書店  1980年

 

あらすじと感想

戦時下でも、家族が平和に朝ごはんを食べる一刻の日常があったのです。それが、まばゆい一瞬の閃光で家ごと吹き飛んでしまったのです。昭和20年8月6日午前8時15分、原子爆弾ヒロシマに投下されます。物語はこの朝からはじまります。「とうさんのからだに、あながあいとる」呆然とするような言葉が行き交います。羽が燃えて飛べなくなったツバメの描写に、はっとさせられます。この兵器は人間だけでなく、地上のあらゆる生き物の生命を奪う、恐るべき力を持つのです。背筋が冷たくなります。亡くなったあかちゃんを抱いて川のなかにざぶざぶと入り消えていく若い母親。恐ろしさのあまり、原爆が落とされて以来、ずっと手から箸がはなれない女の子。麦のおにぎりを分けてくれたあとにばったりと倒れて動かなくなったおばあさん。この絵本は、さまざまな原爆体験者の話を織り込んだ創作です。ゆえに1ページ、1ページにリアリティのある言葉がちりばめられています。絵はその苦しみと悲しさに祈りをあげているようです。この物語には、もとになった実話があり、それを語ってくれた広島の被爆女性との出会いのエピソードも感動的です。これは<あとがき>で知ることができます。

 

読み聞かせレポート
対象: 小学1~4年生 30人
場所: はまっこふれあいスクール

広島原爆投下の8月6日に読み聞かせをしました。きょうはなんの日かわかる? と子どもたちに聞くと、たったひとり手をあげた3年生の女の子が、ヒロシマ・・・ゲンシなんだっけ・・・。いつ、どうして原爆が落とされたのか、どれだけの人が亡くなったのか、いかにおそろしい爆弾だったのか、まず話してあげました。子どもたちはいつものようにザワザワザワ。だいじょうぶかな・・・しかし、ページをめくりはじめると、これまでの「おはなし会」でいちばん、しんと静まり、すごい集中力が絵本にそそがれることになりました。『原爆の図』で知られる丸木俊さんの絵は、ちょっと刺激的かな、と心配しましたが、それは杞憂でした。ときに怖ろしい絵図とも感じられますが、子どもたちがこわがることはありませんでした。かつてない子どもたちの“静けさ”に読み聞かせをしているわたしは、厳粛な気持ちになりました。核兵器という世界を滅亡しかねない存在を、子どもたちは人類の本能として凝視しているように思えました。