マルチンとかぼちゃおばけのまほうのた
『マルチンとかぼちゃおばけのまほうのたね』
イングリート オストヘーレン 著
クリスタ ウンツナー 絵
ささき たづこ 訳 あかね書房 1999年
あらすじと感想
いじめられっ子のマルチンは、夢のなかで妖精から魔法のたねをもらいます。だれかにいじめられたら、そのたねを投げつけて「かぼちゃおばけになーれ」といえば、相手はたちまち手も足もない“かぼちゃおばけ”になってしまうのです。朝寝坊したマルチンのもとへ姉やってきてベッドから突き落とそうとします。マルチンは早速この魔法のたねを使おうとしますが、ためらいます。前に宿題を手伝ってもらったのを思い出したのです。そして、たねを投げるのをやめると姉は急にやさしくなるのです。学校で宿題を忘れて先生におこられそうになったとき。大きい子たちがわざとぶつかってきてパンを落とされたとき。マルチンは魔法のたねを使おうとしました。でも、その前にすべてがうまく運んで、魔法を使わなくてもよくなるのです。さあ、これは一体どうしてなのでしょう……。正直になる、素直になれる、勇気を持つ、そうしたことが魔法のたねを超えた働きをしたようです。けれど、それはやはり魔法のたねがあったからこそできたのです。
読み聞かせレポート
対象: 小学1~3年生 42人
場所: 学童保育クラブ
この絵本には、子どもたちが大好きな“おばけ”はあらわれません。そして魔法を使う場面もでてきません。このストイックな流れに、はたして子どもたちはどこまでついてきてくれるか……ちょっと不安でした。でも、今回はウケることよりも、心にひっかかるものをあえてぶつけてみることにしました。子どもたちは、自分と同じ年頃の主人公に、まずリアリティを感じたようです。物語のなかにすうーっと入りこんできます。見開き2 ページで展開される絵は文ときちんと照応しているので、集中力を切らせません。ただ、いっこうにかぼちゃおばけにする魔法を使わないので、読んでいる方としてはなんか期待を裏切っているようで申し訳ない気持ちもあります。最後まで魔法は使われず物語は終わります。しーん…。どうしてマルチンが魔法のたねの力を借りなくてすんだのか、みんなわかった? 決して教訓めいたことを伝えようとしたものではない、この作品の良さを感じてもらえたかなあ。本を閉じたとき、なにかを考え、思うときの空気がしばし子どもたちの頭上を漂っていました。そして、パチパチパチと拍手が鳴りひびきました。この拍手はきっとマルチンへ送られたものだと思います。