絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

かわっちゃうの?

『かわっちゃうの?』
 アンソニー ブラウン  作  
 さくま ゆみこ 訳
 評論社 2005年

 

あらすじと感想

やかんにしっぽや耳が生えてきたり、ルームシューズに羽が伸びてきたり、男の子の身の回りで不思議な変化が起こりはじめます。洗面台の排水口がくちびるになったり、ソファがワニの姿となったり、椅子の背もたれがゴリラに変わったり、自転車の車輪がリンゴになったり・・・。考えられないようなことがありとあらゆる場面で起こりつづけます。アンソニー・ブラウンの画く子どもにはきっとモデルがいるのでしょうね。リアルでその内面まで表情にあらわれています。写実性と幻想性が重なったシュールな光景がページをめくるたびに繰り広げられます。まぼろしのようなこの変化は、じつはラストで待っていた夢のようなしあわせの予兆なのです。男の子に妹ができたのです。産衣にくるまれた赤ちゃんを抱っこする男の子とお父さん、お母さん。もう不可解なものなど一切ありません。はじまったばかりの家族4人のかけがいのない日常光景が最後のページにそっと添えられます。

 

読み聞かせレポート
対象: 小学1・2年 5人
場所: はまっ子ふれあいスクール

天気が良いのに外に出ないの? でない! ねえ、この本読んであげようか? 部屋遊びをしていた子たちに声をかけてみました。うん! といってひざもとにみんな集まってきました。そのなかにはつい一月前に妹が生まれたばかりの一年生の男の子もいます。図書館でこの絵本を見つけたとき、彼にはぜひとも読んであげなくちゃと思っていたので、グッドタイミング! それにこの絵本は、5、6人ぐらいの少人数で楽しむにはもってこいです。あっ、しっぽだ! ほらこんなとこにクツも! ページをめくるたびに隠し絵のような謎めいた光景があらわれます。子どもたちのテンションもどんどん上がります。みんな絵本の前に顔をならべて“変なもの探し”となりました。読み聞かせというより、これはもう『ミッケ!』の世界です。さて、エンディング、黒い扉から光がもれ、お父さんとお母さんが入ってきます。生まれたばかりの赤ちゃんがズームアップされます。元気な泣き声が聞こえてきそうなリアルな絵。妹を抱く男の子、新しい家族の誕生! しーん……。あれ? さっきまでかぶりつきだったのに。この転結はやっぱり無理があったかな。詩情あるこの作品をミッケ的に楽しみ過ぎたかもしれませんね。
「ああ、あかちゃんがうまれたんだね」例の男の子だけはそうつぶやき、妹を抱く絵本の男の子をちらりと見ていました。