すきです ゴリラ
『すきです ゴリラ』
アントニー・ブラウン 作 山下明生 訳
あかね書房 新装版 2019年
あらすじと感想
ゴリラが大好きなハナ。一度は本物のゴリラに会ってみたいと思っている。でも、お父さんはいつも忙しくてぜんぜん動物園に連れて行ってくれない。だから、ハナは誕生日のプレゼントは「ゴリラにしてって!」とお願いをした。ところが、贈られたのはただの小さなぬいぐるみのゴリラ。ハナはふてて、ぽいっと放り投げ寝てしまう。真夜中、そのゴリラがすっーと大きくなって、ハナを動物園へ誘う。たくさんの本物のゴリラを前にぞくぞくするハナ。それから映画を観て食事をして、ダンスを楽しみ、家へ送ってもらいます。おやすみのキスをしてわかれます。朝、目を覚まし部屋にいるぬいぐるみのゴリラをみて、にっこりするハナ。この誕生日の朝、もっとにっこりすることがハナに起こるのですが、さてそれは……。物語は、距離感のある親子という現実的でさびしい設定ではじまります。やがて王子役ともいえるゴリラがあらわれて夢まぼろしの楽しい一夜が訪れます。ふたたび現実のときに戻ってきますが、そこでは夢まぼろしの楽しみを超える本当のしあわせが待っています。胸がじーんとするエンディングです。子どもと大人の心をひとつにさせてくれるそんな絵本です。
読み聞かせレポート
対象: 小学1・2年 31人
場所: はまっ子ふれあいスクール
やっぱりゴリラって子どもに人気があるんですね。ひざ頭をかかえて、子どもたちはワクワクしてページがひらかれるのを待っています。でも、話のはじまりはちょっとネガティブです。みんなしーんとして聞いています。いつも忙しく時間のないお父さん、きっとみんな覚えがあるのでしょう。ぬいぐるみのゴリラが大きくなっていくところで一瞬ざわっと盛り上がります。解剖絵を医学書に描いていたというアントニーの動物描写もインパクトがあり、子どもたちの視線がじっと注がれます。映画館のシーンでゴリラがスーパーマンに扮したパロディがあります。スーパーマンって知ってるのかな? と思い聞いてみると、ほとんど知っているようでした。世代をまたぐヒーローなんですね。さて、この作品はエンディングにすべてがこめられています。親子のゆるぎない絆がしっかり描かれ、忘れられないメロディのような余韻を残してくれます。読み終え顔を上げると、前にならんでいた1年生の女の子たちと目が合いました。どの目もどの顔も輝いています。安心とうれしさに包まれた輝きでした。この輝きをわたしたち大人は、守り慈しんでいかなくてはならないのですね。