絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

ピエールとライオン

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『ピエールとライオン』
 モーリス センダック 作  神宮 輝夫 訳
 冨山房 1986年

 

あらすじと感想

おいしい食事を出そうとしても、町へおでかけしよう誘っても、ピエールはなにを聞かれても「ぼく、しらない!」としかいわない困った男の子。しかられようが、お願いされようと「ぼく、しらない!」それ以外は口を閉ざしたきり。ひとり家に残ったピエールのところへ、はらぺこライオンがやってきます。「くわれちまうって、しってるだろ?」とライオンが聞きます。「ぼく、しらない!」とピエール。「おれのおなかにはいっちゃうんだぞ」とおどかされても「ぼく、しらない!」。とうとうピエールは……。副題で<ためになるおはなし>とついていますが、う~ん、そんな教訓的な作品ではないと思います。子どもが通過する“困った時期”それを絵本という世界で活写するだけでも面白さがあります。突然、ライオンが出てくる。この唐突さにもぜんぜん違和感を感じないのがいいですね。悪い子を食べちゃう悪いライオン。でもエンディングでは、ライオンは家族3人を背に乗せて家路につきます。お母さんの愛もしっかり刻まれおり、ほのぼのとした気持ちになります。

 

読み聞かせレポート
対象: 小学1年生 32人
場所: 教室(朝の読み聞かせ)

手のひらほどのちいさな本。読み聞かせの場所は教室。このちいささで32人の子どもたちの元気な目を集中させることができるかな……。ちょっと不安でしたが、本のサイズはぜんぜんハンディにはなりませんでした。左半分にテキスト、右半分に絵。センダックの絵は明快で表情の描写もふるっています。いざ、はじめてみるとピエール少年の「ぼく、しらない!」の連発にみんな大喜び。子どもはくり返しが好きです。それもありますが、子どもたちの喜びようはピエールへの共鳴だと思いました。親、大人からの注意、干渉、懇願、すべてを拒否する魔法のことば「ぼく、しらない!」は、本文中になんと25回もでてきます。この5文字の詞をつぶやくように、なげやりに、シャウトして、憎々しげに、といくつかパターンを用意し、発語してみました。最後に待ちかまえていた「はい、わかりました」という立派なことばよりも、「ぼく、しらない!」のほうが子どもたちに気に入られたことはいうまでもありませんね。