絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

ジャリおじさん

『ジャリおじさん』
 大竹伸朗 作
 福音館書店 1994年


あらすじと感想

<はなのあたまにひげのあるジャリおじさん>は、海をみて暮らしていましたが、ある日突然くるりとうしろふりむき、黄色い道を歩きはじめます。やがてピンク色のワニさんと出会って、いっしょに旅をつづけます。青ゾウさん、タイコおじさんとも遭遇します。もうひとりのジャリおじさんともはち合います。もうひとりのジャリおじさんは、道をずっといくと、ごちそうをたくさんくれる“あおいおおきな神様”がいるといいます。ジャリおじさんとピンク色のワニは、神様と会えることを楽しみに歩きつづけますが……。現代美術家大竹伸朗さんの絵本で、しかもそのタイトルが『ジャリおじさん』。シュールレアリズム・不条理文学の先駆者アルフレッド・ジャリをどうしても連想してしまいます。プロットもなく、即興のようなテキストと絵がめくるめくるめくります。でも、最初のページと最後のページは、みごとに海という世界でリンクされています。そして、“あおいおおきな神様”は前景としてあらわれた海であることにも気づかされます。練られたコンセプトの孤高にして不滅の絵本です。

 


読み聞かせレポート
対象: 小学1年生 24人
場所: 教室(朝の読み聞かせ)

現代美術家の絵がどれだけ子どもたちを引きつけるだろう。それにまず関心と不安がありました。人気絵本作家の荒井良一さんとは似ているようで、またぜんぜん違う大竹ワールド。ページの合間々々に子どもたちを見渡すと引きつけられているというより、その表情は宙に浮かんでいる感じです。この絵は、何を描いているのだろう……この物語はいったいどこへ行くのだろう……。静かだけれども不安定な雰囲気。そのなかをジャリおじさんとピンク色のワニさんはただひたすら前進しつづけます。『んぐまーま』(絵・大竹伸朗、文・谷川俊太郎)もそうでしたね。とにかく前進なのです。ジャリおじさんがだれかに出会えば、そのあいさつは「ジャリジャリ」。わたしはこの語感が好きで、ジャリおじさんにもっと「ジャリジャリ」やってもらいたかった。残念ながらわたしのジャリあいさつは受けずじまい。でも「ジャリジャリ」という音韻は、この作品のもうひとつのキモではないかと思っています。読み手に任されたキモということです。最後「そろそろ ごはんの じかんじゃり」とジャリおじさんのせりふで終わります。ここはどんなトーンで終わらせるか、悩みどころでした。ここがうまく着地できないと、全体が宙に浮いたまま終わりそうです。あと2ヶ月で2年生となる子どもたちを前にした読み聞かせでしたが、入学直後の春ぐらいにやっていたらもっと反応が良かったかもしれないなあ。