絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

山おとこのてぶくろ

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『山おとこのてぶくろ』
 松谷 みよ子 文  田島征三 絵
 ほるぷ出版 1984

 

あらすじと感想

あるところに3人の娘がいました。ある日、父さんが木を切っているうちに疲れてしまって、あーあってあくびをしてしまいます。すると、あたりは急に暗くなり、あらわれたのは山おとこ。「いま、あくびをしたのはだれだあ。むすめひとりもらわねばなんねえ」そういって、長女のお月をさらっていくのです。山おとこは、自分が出かけているあいだ、お月に、てぶくろを呑んでおくようにいいつけます。二つある部屋をのぞくなといいつけます。けれど、お月はどちらも守らずに、うそをつき、なべでぐつぐつに煮られてしまいます。今度は、次女のお星が山おとこにさらわれてしまいます。やはりお月と同じで、いいつけを守らず、うそをつき、殺されてしまうのでした。そして、またまたあくびをしたせいで、末娘のお花が山おとこに連れていかれます。お花は、ある若者の知恵で、てぶくろをぜんぶ呑み込みます。そして山おとこの前でうそをつくことなく、部屋をのぞいたことも話しました。するとどうでしょう、山おとこは目から“ごぼごぼとおかゆのようななみだ”をこぼしてこういうのでした。「おら、うそつかねよめこほしかった。おまえこそ、そのよめこだぁ」しかし、そこに若者があらわれて・・・。恐ろしい山おとこ、でも本当は傷つきやすい心を持っていたのですね。味わい深い文章と表現力豊かな絵が、みちのくに伝わる昔話を荒々しくそしてやさしく息づかせています。

 

 

読み聞かせレポート
対象: 小学1年・2年生 約20名
場所: はまっこふれあいスクール

語り部が昔話を聞かせてくれるというスタイルがこの絵本の味わいにもなっています。舞台は“みちのく”です。語り部はおばあちゃんでしょうか。ちからを抜き、いつもよりもゆっくり読むように心がけました。いろり端で火に当たりながら話して聞かせている、そんなイメージを頭に浮かべながらやってみました。ときどき子どもたちの表情を観察しようとすると、いつも以上に目と目が合います。絵本に集中していたら、絵を見ているはずなので、読み聞かせ方が悪いのかな・・・。でも、みんなしーんとして聞いています。まるで、雪降る晩のような静けさです。この物語では、山おとこが主役です。荒唐無稽な怪物性と理不尽さが楽しむところです。山おとこのせりふも“山なまり”というのでしょうか、読めば、言葉そのものが“節”を生むはずです。ラスト、山おとこから涙とともに怪物性が消えます。理不尽さにも理解が及びます。ちょっと悲しい余韻を残して物語は終わりますが、けっして暗いわけではありません。「ねえ、この山おとこ好き?」今度、読んだときにはみんなに聞いてみたいですね。おそらくみんな好きじゃないだろうけど、山おとこのピュアなところに気がつく子ももしかするといるかもしれませんね。