絵本の旅人

「読み聞かせ」のための実践レポートです!

わたしのうみべ

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『わたしのうみべ』
 長 新太  作
 佼成出版社  2002年刊
 

あらすじと感想

海が目の前に広がっています。朝の海辺です。そこへ瓶や貝が流れ着いてきます。おばけが流れ着きます。傘が立って待っていて天気を聞いたりします。すべり台、怪獣まで流れ着きます。海辺という固定したフレームのなかにつぎつぎと愉快なものがあらわれては消えていきます。二日酔いのおとうさんまで流れ着いてきたときには、思わず吹きだしてしまいました。長 新太さんらしい無邪気で奇想天外な作品です。つぎにいったい何があらわれるのかとワクワクする絵本です。ページをめくるたびにストーリーを超える“びっくり”があります。仕掛けなど何もありません。ひらめきがもたらしてくれる解放感。どうやらこの絵本のチカラはそのへんにあるようです。そして、この絵本にはなんともいえない静けさがあります。それは、何かがあらわれる前の「無」の静けさというのが、行間ならぬ頁間にあるからではないかと思いました。

 

読み聞かせレポート  
対象: 小学1年生 23人  
場所: 教室(読み聞かせの時間)

小学校での朝8時半からの読み聞かせでした。初めての場の読み聞かせです。持ち時間は10分。教室に呼ばれ挨拶も早々に読みはじめました。ちょっと緊張してしまい、ページをめくる手がふるえます。こちらがそうだと相手もそうなります。かた~い空気が立ち上がります。しかし、それもはじめの数ページだけ。大きな木が流れ着いたページから「わぁー」「おー」という歓声が上がり、あとは自動的といいますか、ページをめくれば色とりどりの笑い声がわき起こります。読み手の指は、つぎの絵を早く見せたがってワクワクしてきます。でも、ここはちょっとじらすくらいの間(ま)が大切です。大いに受けた作品ですが、気になったことがひとつありました。後半、大きな家が流れ着く場面があるのですが、その時、子どもたちから、ツナミだ、ヒガシニホンダイシンサイだ、という声が上がりました。すばらしく愉快な絵本ですが、震災に遭った子どもたちに見せるわけにはいかないな、と思いました。