太陽をかこう
『太陽をかこう』
ブルーノ・ムナーリ 作 須賀敦子 訳
至光社 1984刊
たしか4歳だったか、保育園の窓ガラス越しに太陽をじっと瞬きもせずに見つめたことがあった。それ以来、まっしろく輝く真円の太陽が記憶の空に張り付いたままだ。
目によくないとはわかりつつも、最近ふたたび太陽を直視してみた。あの時と同じ太陽があった。遊戯室の板ガラスを通して見つめた太陽とまったく同じだった。なぜかほっとした。記憶が現実だったことに安心したのかもしれない。ときどき現実の記憶なのか、夢や空想を記憶したことなのか、わからなくなってしまうこともある。
ブルーノ・ムナーリ『太陽をかこう』という絵本がある。ムナーリはイタリア人。太陽を主人にした絵本には、もってこいの作者だ。もちろんアート感覚も秀逸。マッソンやミロのリトグラフ、勅使河原蒼風(てしがわら・そうふう:草月流の創始者)のくろい太陽まで登場する。北イタリアの岩に彫った原始人の太陽。テンペラと筆で描かれた太陽。指で描かれた太陽。フェルトペンで描かれた太陽。にんげんの顔をした太陽。ひつじのおなかの下にかくれた太陽。きりえの太陽。うすめで見た太陽。草のむこうにしずむ太陽・・・。いろいろな太陽がいっぱい登場する。ほんものの太陽は、まぶしすぎてなかなか見ることはできない。でも、絵の太陽ならいくら見てもへっちゃらだ。太陽はひとつだけど、人は無限に太陽を描くことができる。